古典というものを、
いまの自分たちの好奇心に照らして、
おもしろく読み解く。

それが「ほぼ日の学校」の基本姿勢です。

実際、1月にはじまった
シェイクスピア講座では、
研究者、作家、演出家、翻訳家など
多彩な講師のみなさんが、
400年も前に書かれた戯曲が
いまもまったく色あせることなく、
私たちの心を揺さぶるものであることを
示してくださっています。

第10回講義は、
いつもの教室を飛び出して草月ホールで行います。

題して「シェイクスピアの音楽会」。

シェイクスピアの時代の音楽というと、
ちょっと遠い感じがするかもしれませんが、
有名な「グリーンスリーブス」は、
「ウィンザーの陽気な女房たち」の
劇中歌として使われたものだそうです。

当時と同じ楽器、
リュートやヴィオラ・ダ・ガンバで
奏でられる音楽に身を浸せば、
ホールはタイムマシンのように
私たちを17世紀に運んでくれるはず。

でも、「そんな楽器知らない」と
おっしゃるかもしれません。

そこで、舞台に立つ中山真一さんと、
佐藤裕希恵さんに聞かせていただきました。

いにしへの楽器と音楽に
魅せられた理由を。

5月29日 ほぼ日の学校スペシャルイベント

「シェイクスピアの音楽会」チケット購入はこちら▼

5月29日 16:45 〜 18:45

草月ホールで当日券を販売します。

お問い合わせはgakkou@1101.comまで。

中山さんのプロフィールはこちら

東京大学理学部生物学科に入ったものの、
やはり音楽をやっていくことを選択して、
ジュネーヴ音楽院古楽センターに進み、
ヴィオラ・ダ・ガンバ専攻で卒業。トゥール音楽院で
ルネサンスダンスとリローネを学ぶ。

在学中よりEnsemble Elyma, Ensemble Concertoほか
ヨーロッパの多くの古楽アンサンブルのメンバーとして、
また独奏者としてスイス・イタリア・フランスなど各地の
コンサート、音楽祭、録音などに参加。帰国後は
パリで創設したグループHarmonia Grave e Soaveの日での
公演のプロデューサーとして、また古楽のほかジャズや即興、
ダンスとの共演も多く行っている。演劇作品への出演も多く、
2016年には河合祥一郎主宰のKawai Projectで
シェイクスピア作『まちがいの喜劇』公演の
舞台上での演奏を担当した。

Photo by Ruriko Nakayama

佐藤さんのプロフィールはこちら

東京芸術大学声楽科及び同大学院古楽科修士課程卒業。

卒業時にアカンサス賞受賞。スイスのスコラ・カントルムで
学び、バロック科修士、中世・ルネサンス科修士課程修了。

第2回国際古楽コンクール第一位(ポズナン)、
第28回国際古楽コンクール山梨第一位及び上原賞(山梨)、
第2回ヘンデルアリアコンクール第三位(マディソン)を
受賞。中世から古典派までのレパートリーを中心に、
オペラやアンサンブルのソリストとして国内外共に精力的に
活動。特にオペラでは、渡欧前ミュージカルや芝居の舞台に
多数主演した経験を活かし、現地の演出家やメディアより
好評を博す。

https://www.yukiesato.com/

ーー
今日は古楽の魅力を語っていただきたいと思います。
中山
ぼく、古楽っていう言葉を使わないようにしているんです。

バロック音楽とかルネサンス音楽とは言いますが。
ーー
え、「古楽」だめですか?
中山
古楽っていうと、難しいイメージがあるでしょ。

昔の楽器をつかって、昔の楽譜を使って、
楽譜に書かれていることをそのまんまやる。

できれば昔の人が来ていた衣装を着て、みたいな。

それが一般的なイメージではないでしょうか。

ぼくはそれを全否定したい。

そもそもはっきりした定義がないんですよ、古楽って。
ーー
時代的に区切られているわけではないのですね。
中山
一般的には、だいたい人文主義の時代より前、
いわゆるルネサンス期の前の時代を指すと
思いますが、明確な定義があるわけじゃないんです。

ぼくは、きちんと定義できて、
わかりやすい言葉を使いたい。

だから、宮廷音楽とか、教会音楽とか、
ある時代のどの地方の‥‥と具体的に絞って
表現したいと思っています。

「古楽」って「民族音楽」と同じくらい
あいまいな言葉だと思うんですよね。

ーー
なるほど。

では、具体的に楽器の話を聞かせてください。

ヴィオラ・ダ・ガンバは、
チェロと違って、脚ではさんで
ささえるんですね。

▲ニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵の
1680年ごろのヴィオラ・ダ・ガンバ

中山
ガンバはイタリア語で「脚」。

ヴィオラ・ダ・ガンバは
「脚の弦楽器」という意味です。

脚ではさむのではなくて、脚に乗せて
演奏します。
ーー
素人の質問で恐縮ですが、
チェロとどう違うのですか?
中山
形は似ているんですけど、
チェロは「ヴァイオリン族」の楽器で、
ヴィオラ・ダ・ガンバを含む「ヴィオール族」とは
同じ時代にぜんぜん別の系統から生まれて
発達した楽器なんです。

楽器はいろんな場所でさまざまな発達をして、
ハイブリッドが生まれたりして変化してきました。

ヴィオラ・ダ・ガンバにも
いろんな形があるんですよ。

弓の持ち方も、いまは下から持つのが主流ですが、
昔は上から持ったり下から持ったり、いろいろでした。

「これはこうだから、こうでなければならない」
といった規則があったわけではないんです。
ーー
へえ、自由なんですね。
中山
そう。自由です。

その場にある楽器や状況にあわせて、
その場でベストなように演奏されるのが、
当時の音楽でした。楽器も決めつけずに、
ギターしかなければギターでやればいい、
現代だったらマリンバで代用するとか、
そういうこともできるような自由さがあったんです。

厳格なはずの教会のミサの記録でも、
教会に登録されている歌手がいなかったから、
器楽奏者で穴埋めしたとか、
そういう記録がいくらでもあります。

 

そういうその自由さは、ジャズに通じるところが
あるかもしれません。

ぼくはジャズが好きで、
大学時代ベースを弾いていたんですが、
そのうち、どうも17世紀、18世紀の音楽の感覚が
ジャズに近いなと思って、そっちに
のめりこんでいったところがあるんです。
ーー
ジャズの話題がでたところで、
5月29日に出演していただくスイス在住の
リュート奏者の坂本龍右さんから、
即興演奏の動画が届きました。

ちょっと見ていただきましょう。

本拠地バーゼルでの演奏会でのひとこまで、
ルネサンス・リュートによる即興演奏です。
ーー
中山さんへの質問に戻ります。

ベースよりもヴィオラ・ダ・ガンバを
選ばれたのはどうしてですか?
中山
音です。

すべての音域で倍音成分が豊かに鳴るので、
ヴィオラ・ダ・ガンバは表現力の幅が広いと思います。

しかも、弓をアンダーハンドで持つから、
弦を指先ではじくのと同じくらい
弦に直接触れている感覚があります。

それによって、音の立ち上がりを細かく調整できるのです。

シンセサイザーで音作りするくらい楽しい感覚です。

ーー
音を耳にするのが本当に楽しみです。

佐藤さんにお聞きしたいのですが、
バロック、ルネサンスの頃の声楽を
専門にされたのはどうしてだったのですか?
佐藤
普通にクラシックを勉強しているうち、
だんだんバロック音楽に興味をもって、
スイスに留学して中世ルネサンスに出会って、
結局7世紀頃の単声音楽まで
さかのぼってしまいました。

ーー
どうして、さかのぼったのですか?
佐藤
音楽の歴史はつながっています。

現代の私たちがどう生きていくか考えるとき、
歴史を知らずして次のステップに進めないのと同じで、
いまのこの時代に何を演奏するのか、
どういう演奏をするのかを考えるとき、
歴史の文脈を考えないわけにはいかなくて、
調べていくと芋づる式に‥‥(笑)。
ーー
時代によって、
歌い方は違うものですか。
佐藤
歌い方を変えるんですかと
よく聞かれますが、変えるというよりも、
その音楽がどこで誰にむかって
何のために歌われたかを考えると
おのずと歌い方が変わってくるのだと思います。

たとえば残響の大きい大聖堂と小さな部屋、
あるいは劇場で人が観るなか、
メッセージをもって伝えるのか、とか
状況と目的にあわせた歌い方というのがあります。

中山
何を伝えるかは本当に大事ですね。

ぼくが大切だと思うのは、
「この音楽はこういうことを言おうとしている」
というのが聴いている人に伝わること。

「当時の楽譜どおりに演奏しているから正しい」
というのではなくて、
楽譜を読み込んで、足りない情報を補って、
細かい修正をして、納得してから演奏する。

そうすることで、
その音楽が言おうとしていることを伝えることができる。

今度の音楽会でいえば、
『柳の歌』が歌われているとき、
シェイクスピアを観ていたお客さんは
何を感じていたんだろう。

それが伝わればぼくらの演奏は成功なんだと思います。

難しいことは考えなくていいんです。

ただ、感じて、楽しんでいただければ。
ーー
ありがとうございました。

29日の音楽会がますます楽しみになりました。

おわり

  • 日時:2018年5月29日(火)

    会場:草月ホール

    18時開場 19時開演 21時終了予定

    全席指定6,480円(税込み)

    第1部
    講演「シェイクスピアのセリフの音楽性」

    登壇者:河合祥一郎(シェイクスピア研究者、
    東京大学教授)
    第2部
    リコーダー合奏
    第3部
    シェイクスピア時代の音楽を聴いてみよう!

    中山真一(ヴィオラ・ダ・ガンバ、テナー)

    坂本龍右(リュート)

    佐藤裕希恵(ソプラノ)

    太田光子(リコーダー)

    チケットはこちらから▼

    5月29日 16:45 〜 18:45

    草月ホールで当日券を販売します。

    お問い合わせはgakkou@1101.comまで。