MASUNO
このごろのもりまりこ

<煙草と蝶>

わたしがすきだった社長さん。
2で割って許されるのなら、藤岡啄也プラス志賀勝。

いつも、右手の指と指の間には、ピースを挟んで。
ぺらぺらのぶるぞんをはたはたはためかせて。
その口はみんなを怒りつけるためと
煙草を吸うために用意されているかのようで。
きれいなお姉さんの愛人さんがいっぱいいて。
広告の会社をけいえいしていました。
そこは社長さんの天下で。
どこでも似たりよったりでしょうが、
すべてのややこしい事は、No2の人に
任せっきりで。
あいつは気に入らんからクビやとすぐ、人を斬り。
そこの会社のみなさんは、リストラなんんてことばが
流布されるずっと前から、脅えていたのです。

きっといつかこの人は刺されるに違いない。
それも背中から。
と、勝手にふんでいたわたしですが。
最後まで刺される事はありませんでした。

趣味は煙草と蝶。
バリの山奥に慰安旅行を決めたのも、
珍しすぎる蝶がいるからとかで。
だから、捕獲しちゃいけないことになってるんですよ。
見るだけでいいじゃないですか。
そんなことしたら、逮捕されちゃいますよ。
と、No2が言ってもぜんぜん聞き入れず。
向こうのポリスさんが観光客が不正に捕獲しないかを
見張ってるそのポリスさんを見張っとけ〜と、
そのNo2を山の入り口で見はらせて。
そんなにして蝶を追っかけていたりするのが、
好きみたいでした。

そんな時だけはくちびるから煙草を外して、暫しの禁煙。
でも、追いかけても追いかけても、
ふられちゃうんです、蝶には。
夜の大好きな蝶には、なぜかもてもてだったのに。

ある時、会社のフロアがどんどん狭くなっていくのを
なぞるように社長さんのからだもどんどん小さくなって
ゆきました。
とっても重たすぎる病を患ってしまっていたのです。
でもそんなこととっくに社長さんは知っていて。
もうやばいんちゃうかと思っとったんやけどね。
と、わたしにこっそり教えてくれたことがあったのです。
なんも喋らんでいいから、そこで黙って聞いとって。

わたしと社長さんの間には、音もない音がしていて。
紫の煙りが、もわもわと漂っているだけで。
そんな煙りに燻されながら
わたしは社長さんのことが大好きなんです。
と、告白することは、
とっても残酷なことなのか、甘美なのかどっちなんだろう
なんてしたたか不謹慎なことしか思い浮かばず。
社長さんの未来よりも、今の時間にちょっと身をゆだね
くゆらせている時間だけが大切なような気がして。

社長さんはわたしの顔も見ないで。
壁の写真に見入っていました。
じぶんでとったちょうです。
捕ったでなく、撮ったレアもののバリ在住の蝶の写真。

いつしか社員さんも社長さんのからだの
やむをえない状況に気付き。
『社長さん煙草禁止令』を発布したのですが。
案の定、耳を貸さずに。
前にもまして、狭くなった会社のフロアは煙りまみれに
なっていました。

あんたがなぁ、わしのからだと五十年近くつきあって
きたんやったら、そらあんたのゆーとることも
聞くわいな。
わかっとるか!わしのからだにつきあってきたんは
このわしやで〜!もう、口挟まんときっ。

主治医に対してもへ−キでこんな台詞を吐き飛ばしながら
わたしの大好きだった社長さんは、死んでしまいました。

ゲンズブールの特集を読んでいたら、
『心臓発作おこしても煙草を止めずにいた』だとか
『わたしは5分置きに禁煙してる』とかって語録を
見つけました。

ふいに社長さんのピースを思い出してしまいました。
背中から刺されなかったけど、
死ぬまで煙草を離さなかった社長さんは
刺殺ではなくて煙草死にだったけど。

わたしの大好きな社長さんはとても正しい煙草との
つきあい方をしたんだと、今でもわたしは思っています。


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もりまりこの第一歌集『ゼロ・ゼロ・ゼロ』の
(フーコー/星雲社)
ブックでザインをてがけてくださった
立花文穂さんの個展『体からだ』が、
表参道の『ア−トショップナディッフ』
(03-3403-8814)
にて開催されています。(〜2.28)

なお、開催中は歌集も同時販売されています。
みなさまお誘いあわせの上、どうぞお越し
くださいませ。

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2000-02-23-WED

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