MASUNO
このごろのもりまりこ

<ふたりのゆくえ>

ふたりの願いはひとつだけ。
ふたりの行きたい場所をひとつにして
タクシーのシートに、他愛もなく腰掛けてみたい。
いちどでいいから。

きょうもタクシードライバーに怒られてしまった。
お客さんどちらまで。
あたしは右じゃなきゃといい
あの人は左にきまってるじゃないかと。
それはもう生まれつきそうなのだからしょうがない。

『っざけんじゃないよ』、『遊びなら降りて降りて
降りろっつうの!!ばか』。
あたしたちは遊びなんかじゃないのに。
まっすぐなんだよ、いつだって。
だって乗ってみたいんだもん。
タクシーでどこかまでどこでもいいよ
ふたりで行ってみたいだけなのに。

そして。
『ばか』なふたりはべつべつのドア−から降りてゆきました。

でもいつだったかの大阪のドライバーのおじさんは、
すこぶるやさしかったよ。少しのあいだだけだったけど。
『決まってへんの〜わかったわかった待ったるさかいなぁ』
って。
よくみたら車内にはキイロとクロの旗がファンの風で
ゆらめいていた。
そう、タイガースが絶好調の頃の話だったと思う。
もう奇跡に近かったんだと思うよ。
いや、タイガースのことでなくって。
そんな運転手さんに巡りあえたことがね。
そのときあたしは思ったの。
大阪に棲んでいる限りタイガースさえうまくゆけば、
ひとはいろんなことを許してくれそう、って。
あたしたちのことさえも。
でも、やっぱり限度だったみたいで。
くるりとうしろのシートに腰掛けてるあたしたちを
睨んで『あほちゃうか!あんたら。もう降りてンか!!』

そして。
ふたりはやっぱりべつべつのドア−から降りてゆきました。
『あほちゃう、ちゃうちゃう、ちゃうっちゅーねん』と
こころンなかでつぶやきながら。

みんなはあたしのことをみもふたもなく
線だけであらわしてくれる。
どんなに絵がへたなひとでもあたしのことを描いて
くれるときは『マ』みたいなかんじで描く。
もうちょっとていねいにっていっても、これにしかみえない。
そういって、ぞんざいに鉛筆を走らせるの。
よく会議の時とか授業中の黒板とかにはあたしや彼が
むざんなぐらいなぐり書きされてる。
あいされてるのかしいたげられてるのかさえわからない。

そしてだいすきな彼のことはもうおわかりでしょ。
あまりつまびらかにしたくないんだけど。
まあぶっちゃけてしまいたくないけど
みんなみんななぜだか『ミ』って感じでしか描かないの。

ちまたであたしたちは可哀相な恋人たち
『ヤジルーシ』と呼ばれてるらしい。
なんかやだ。かってに名付けられて揶揄されてるだなんて。
あたしたちが名前を呼び合うなんてことははないから、
そんなことどうでもいいのだけれど。

海風の吹く街の産院でママがあたしを産んでくれたとき
そのときからあたしは『マ』だったから。
どんなに逆立ちしたって『メ』にはなれないし。
そして彼はどこで生まれたのかおふくろも話してくれない
とかって言ってたけれど、彼だって産まれ堕ちたときから
『ミ』のすがたをしていたから。
まあそこまではおたがい、どんまいな日々。
うまれてきてよかったことがたくさんあったしね。
たとえば道に迷ったときはああ!『マ』に行けばいいのか。
なーんだ、そうだったんだ。ありがとう!ってわけもなく
感謝されたこともあったし。彼もそんなことよくあったって。

でもかなしかったのはそんなベクトルのちがうあたしと彼が
であいがしらみたいに出会ってしまったこと。
噂は聞いてたから、ふたりとも遠くから知っていた間柄では
あったんだけど。
でもハードルはわらっちゃうほどそこかしこにあって。

どうしてこんなにふたりはずれてしまうんだろう。
ってかなしいさびしい顔をしていたら、
彼はへらへらわらってた。まあ性分だからなんだろうけど。
でもそんな彼のツラをみていたらどんどんお腹の底から
こみあげてきておもわず怒っていたら、
こんどは彼がかなしい目をしてしまった。

でもね、そんなある日。
あたしはもうへとへとに疲れ果てて。
彼もくたくたにぐにょぐにょになりかけてた時。
まっさらなつめたくて気持のいいシーツの上に
ぼよんと横になろうと思ったら、
彼もふいにはずんでしまってそんなひんやりとする
きもちのいい場所にへたりこんでしまったの。
そして、万華鏡のぞくみたいにめまいがおこって
あたしはぐるぐると右回りのめまい。
彼はびろびろと左回りの。
そしたらもういつのまにかあたしたちは
そう、誰かがふたりをみたらきっと
君たちはこんなふうにしかみえないんだからって
めんどくさそうに描くんだと予感はするんだけど

あたしたちふたりはいつのまにかしんじられないけれど
『⇔』なひとつになってしまったの。
とつぜんかみなりにうたれたみたいに。

もうどこにも行けないし。
どこかに行こうとなんかしなくていい。
そうよ、タクシーなんかいらないのねってわかったとき
あたしたちはとつぜんじゆうになったきがしたの。
ぶきようなふたりにそんな日がおとずれるなんて。
それはたったひとつのすてきな発見だった。

そんな夜のこと、あたしきっときっとわすれない。
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      みなさん、春ですね!
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もしお手に取っていただけたなら、これも赤いゴム
の縁と思ってどうぞレジまでなにも考えずにいちも
くさんに目指していただいけたら、ものすご〜く、
うれしいです。まあ無理にとは申しませんが、御好
意でそうしていただけたならあたくしは、ココロン
中で投げキッス。なんぞをばんばんと、惜しみなく
投げさせていただきたい、所存でございます。なん
でしたら今すぐお礼をさせていただきますね。。!
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2000-03-31-FRI

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