日本のすばらしい生地の産地をめぐり、
人と会い、いっしょにアイテムをつくる試み。
「/縫う/織る/編む/」、
どうぞよろしくお願いします。

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帰国してすぐに始めた、産地まわり。

──
日本に帰ってきたら、すぐに産地に行ったんですか?
宮浦
すぐですね。
帰った翌日にアポイントを取り始めて、
翌週にはもう八王子に行ってました。
──
八王子といえば、江戸時代から絹織物で栄えて
「桑都(そうと)」、「絹の道」と
呼ばれているところですね。
宮浦
はい。「みやしん」という機屋さんの
伝説的なテキスタイルの職人、
宮本英治さんのところに通いました。
そのうち、僕を気に入ってくれて、
「日本には繊維産地がいっぱいあるから、
もっと見ておいで」って、
宮本さんがその場でリストを印刷してくれて。
 
とにかくもう、
「先月までイギリスで学生やってた宮浦と申します」と
電話をかけまくって、5ヶ月で50社ぐらい、
デジカメとメモ帳を持って、
取材というかたちでおうかがいしました。
そうしたら、どこもおもしろくて、
WEBで紹介するだけじゃなくて、
本にしよう! って思ったんです。
自費出版で1,000冊ぐらいつくりました。

──
本を作られたんですか?!
それもまた、すごいです。
宮浦
はい。
本ができた当時、渋谷パルコに「ぴゃるこ」っていう
レンタルスペースがあって、アタックしたら、
「おもしろいね、いいですよ」ってOKもらって。
1日貸し切って、本の発表イベントもやりました。
たくさんの人が来てくれて、
メディアの編集長さんとか、
ファッション雑誌の『装苑』の方とか、
面識もないデザイナーの方とか、
300人ぐらいがウワッて来てくれて。
会場に入りきれないぐらい。 
──
すごい、大盛況ですね。
宮浦
繊維産地が、とか、テキスタイルが、とかって、
そういう話はまだ誰にも刺さらないと思ってたんですよ。
自分も、日本にいたときは興味なかったですから。
それが、みんなこんなに興味持ってくれるんだ、って
ちょっと驚きました。
それがきっかけで、翌月には雑誌のお仕事をいただいたり。
いまの仕事にもつながっていくんです。
──
その本は、なんていうタイトルだったんですか?
宮浦
『セコリブック(Secori Book)』っていうんです。
古民家を改築した「セコリ荘」。
──
「セコリ」って、なんですか?
宮浦
「セコリ」って僕のあだ名だったんです。
日本の学校では、イタリアの「セコリ式」という方法で、
パターンメイキングを学んでいたんです。
その「セコリ」の音の響きがよくて、
スペルを変えてSNSのアカウント名にしていたら
それがあだ名になったんですけど(笑)。
「セコリ荘」っていう場所もつくりました。
──
「セコリ荘」とは?
宮浦
いわゆるコミュニティースペースです。
イベントやワークショップを開いたり、
おでん屋さんもやってました。
建物の老朽化のために、2022年に閉じたんですけど。
──
ロンドンから帰ってからすぐに産地をまわり、
本の自費出版、セコリ荘‥‥。
スピード感がすごいですね。
宮浦
産地をまわるのが、本当に楽しくて。
さらにそれを伝えたい、
広げたいとエネルギーが湧き出ました。
僕のベースにあるのは、
つくり手さんが好きだっていうことなんです。
訪ねていって話を聞くのが大好きで、それが天職というか。
──
気づけばそれが、仕事になっていた?
宮浦
そうですね、セコリ荘を運営しながら、
たくさんの産地をまわって取材して、
雑誌の連載のお仕事をいただいたりして、
なんとかやってました。

つくり手が近くなる「産地の学校」。
──
「産地の学校」が始まったのが2017年。
宮浦
産地をまわっていて、
繊維業界が危ない、ってひしひしと感じたんです。
『セコリブック』に掲載した工場さんも
廃業してしまったりして。
「自分が楽しければいいや」から
「役に立たなきゃな」ってあらためて思ったんです。
──
「何か役に立つことを」と。
宮浦
そこで、モノつくりやその現場を
知る人の分母を増やそうと思って始めたのが
「産地の学校」なんです。
実はセコリ荘って、
繊維業界の人がよく集まる場所だったんです。
そこでみんなの話を聞いてると、
現場を知らない人が多いことがわかったんです。
そして、「産地に行きたい」とか、
「もっと背景を知りたい」っていう声も、
すごく聞こえてきてたんですよ。
じゃあ、みんなで見に行こうって。
──
産地について理解のある人たちを。

宮浦
はい。
僕と同じ熱意でディスカッションしたり、
プロジェクトをやるような人たちを増やしたかった。
そこで、アパレルに携わる人向けに学校をつくることにしました。
講師は現場の職人さんや、
生地や糸を熟知した上で活躍しているデザイナーさんなどです。
──
そういえば、「ほぼ日」でもおなじみの「MITTAN」
三谷さんも講師として呼ばれて、
お話したことがあるとおっしゃってました。
宮浦
そうです、そうです。いろんな人に支えてもらって、
いまでは「産地の学校」から職人になる人も出てきましたし、
大手のアパレル会社に入った方もいるんです。
これ、繰り返していけば、いい感じになるなって思って。
──
「産地の学校」は今度10期になるんですね。
学校では、どういうことを伝えるんですか?
宮浦
キーワードは、「ストリート感」。
「アカデミックよりストリート」が合言葉なんです。
難しい本はいっぱいあるんですけど、
できるだけ難しくしないで、「わかりやすく楽しく」、
繊維産業とテキスタイルについて体系的に学ぶ。
そして「産地にリスペクト」ということを
みんなが常に思ってることが大切なんです。
「工場につくらせる」、「やらせる」みたいなことを
平気で言うアパレル業界ですが、
「やっていただける」、「つくってくださる」、
この価値観をもってもらえればと。
──
「産地の学校」のほかに、
大学や専門学校でも教えてらっしゃるんですよね。
そちらではどんなことを?
宮浦
国際ファッション専門職大学では、ゼミを持たせてもらって、
ゼミ生を全国の産地に連れて行ったり。
文化服装学院では通年で特別講演を行ってます。
300人くらい集まるんですけど、
「産地、産地」って、ずーっと言ってます。
プロ向けの「産地の学校」だけだと狭いので、
広げなきゃ、広げなきゃって思ってるんです。
だから若い人のいるいろんな学校に行けるだけ行って、
自分のアプローチを広げようと思ってやってます。
──
より若い世代から、仲間が出てきたらいいですよね。
宮浦
はい。
言い続けてたらきっと変わるなと思って、将来。
そしたら先日、「ほんとに変わってきた」って、
先生が言ってくれたんですよ。
産地とかテキスタイルが当たり前になってきた、って。
──
あぁ、よかったですね!
アパレルの業界にこれから入る人たちが、
入る前に産地を知ってる状態がつくれるわけですよね。
宮浦
そうなんです。さらに興味が湧いた学生は自分たちで、
自主的にいろんな産地に行き始めてるんですよ。
面白くなってきてますね。

(つづきます)

テキスト:武田 景

2024-04-04-THU

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