怪・その25

「壁の向こうから」



私が小学生から高校生くらいまでの間に
時々聞いた、
音、にまつわる不思議な体験です。
私の実家は古い団地の2階です。

子どもの頃から、夜は家族5人、
1つの部屋で寝ており、壁際が私の場所でした。
時々夜中に目が覚めると、その壁の向こう側から、
ボールを弾ませる音、
そしてハイヒールで階段を上がってくる音が
聞こえていました。

当時はまったく怖いとは思っておらず、
ただ、子どもが遊んでいるのかな、
誰かが帰ってきたのかな、
くらいにしか思っていませんでした。

ちょうど同じくらいの時期、
トイレに入っていると、
すぐ横の玄関から
「ただいまー」と
家族の声が聞こえることがありました。

とても明瞭に聞こえるので、
本当に家族が帰ってきたのだと思って疑わず、
しかしトイレから出ると、
その家族はまだ帰ってきていない、
ということが度々ありました。

これも特に怖いという感じはなく、
ただただ不思議に思うだけでした。

しかしいずれの音も、
20歳になる前に聞こえなくなってしまいました。

少し寂しい気もしますが、
よく考えてみれば、
夜中に子どもがボールで遊んでいるはずもなく、
また寝室の壁の向こうは階段ではなく、
庭に続く路地と駐輪場があるだけで、
おまけに我が家は2階だったので、
誰かが上がって来れるはずもないのです。

そんなことに思い当たってもなお、
やはり怖い気はせず、
また聞いてみたいな、
と懐かしく思ったりしています。

(おだんご頭)

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2023-08-20-SUN