怪・その29

「イヤホンを付けると」



私の大学の後輩は寝つきが悪く、
普段から夜遅くまで起きています。
彼から聞いた話です。

眠れない夜、
2階の自分の部屋のベッドで横になりながら
音楽を聴いていました。

2時か3時頃だったと思います。
1階で足音がしました。
家族の誰かが起きて水でも飲んでいるんだろうと思い、
特に気にせず音楽を聴き続けました。

しばらくすると、また1階から足音が聞こえてきます。
するとその足音は2階に上がる階段の方へ
近づいてくるのがわかります。

2階には姉と自分の部屋がそれぞれあり、
両親の部屋は1階にあります。
その日は姉は家に帰っていなかったので、
ドアの開く音はしなかったけど今頃帰って来たのか、
それとも親が階段の方まで歩いて来ているのかなと思い、
イヤホンを外して耳をすませてみました。

すると足音がしなくなったので、
親のどちらかが階段のところまで来て
部屋に戻ったのだと思いました。

イヤホンを付け直して音楽を聞いていると、
今度はさっきの足音が階段を上がってきました。

足音をよく聞くためにイヤホンを外すと、
足音は消えました。

このとき、その足音はイヤホンを付けている間だけ
動いているのではないかと思い始めました。

不気味だなと思いつつも、
興味本位でもう一度イヤホンを付けてみます。

すると足音はゆっくりと階段を上がり、
ついに2階まで来ました。

そこでイヤホンを外すとやっぱり足音は聞こえません。

もう一度イヤホンを付け直すと、
足音は廊下を進んで
手前にある姉の部屋を通り過ぎるのがわかりました。

またイヤホンを外すと、
廊下からは何の音も聞こえてきません。

姉の部屋を通り過ぎると、
廊下の先には自分の部屋しかありません。
嫌な予感と緊張で心臓の鼓動が早まりました。

けれど好奇心に抗えず
もう一度イヤホンを付けると、
もの凄い勢いで足音が部屋に向かって来たので
慌ててイヤホンを外した瞬間、

まるで誰かがドアノブを下げて
すぐに手を離したように
ゆっくりと扉が内側に向かって開けられました。

足音は消え、廊下には誰もいませんでした。

流石に怖くなったので、
扉を閉め、音楽を聴くのはやめて、
その夜は布団に潜り込んで寝ました。

今思えば、イヤホンからはずっと音楽が流れていて、
あの足音が聞こえ始めたときは
激しいロックの曲が流れていました。
それも、普段なら足音は聞こえないはずの音量で。

もし最後にイヤホンを外していなければ
足音の正体を目の当たりにしていたのか、
怖いけれどとても気になります。

(m)

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2023-08-22-TUE