怪・その40

「窓の向こうで」



お父さんとお兄さんの三人暮らしである吉本君の家は
古いアパートで、吉本君の部屋は
カンカンと音を立てる鉄製の階段を登ってから、
廊下を二部屋ほど奥に進んだところでした。

アパートの部屋の窓は廊下に面していて、
夜遅くでも部屋の前をひとが通ると
町灯りを遮るように影が横切ります。

その窓の前には吉本君の勉強机が置いてあり、
帰ってきたお兄さんと
窓越しに話すこともあったそうです。

そんな吉本君がその窓を
2度と開かないように
釘で打ち付けたと言うのです。

少し歳上の彼のお兄さんはその時、
十代後半で、友達と遊びに行って
夜帰ってこない日もあったとか。

お父さんも同じような経験があったのか、
お兄さんには寛容でした。

そんなある夜のこと、
仕事から帰ってきたお父さんは
ひとりで晩酌をして早々に眠ってしまい。
ネットもスマホも無い当時のこと、
何度も見た雑誌も読み飽きたので
吉本君は寝ることにしたそうです。

吉本君がウトウトしてふと気がつくと、
やけに静かだったそうで、
アパートの前を誰かが通る足音すら聞こえず、
恐くなった吉本君はまんじりともせず
誰かが通るのを待っていたそうです。

しばらくすると、
鉄製の階段を誰かがゆっくと
登ってくる音が聞こえたそうです。

同時に2、3日前に見た
気味の悪いものを思い出したそうです。

吉本君の住むアパートの向いには
酒屋さんと工事中の覆いをされた場所があり、
夜、寝静まった頃に、空けた窓から机に乗りだして
何気なくそのあたりを見ていた時のことでした。

最初は猫だと思って見つめていたそれは、
よく見ると、足首から下だけの人の足でした。

その一対の足首は足音もたてず、
目の前の工事現場の簡易扉の下からでてくると、
何事もなく酒屋さんの前を横切って
どこかへ去って行きました。

そんなことを思い出していると、
階段を上ってくる足音が、
裸足で登っているかのように
ミシ、ミシシ、ギイ、ギイと
聞こえているのに気付いたそうです。

「ほんまかいな!」そう思った吉本君は
隣の部屋で寝ているお父さんを起こそうと
ゆっくりと振り向きました。

その時、ヒタヒタヒタッと、
階段を上りきったのであろう何かが
足早に廊下を進んで
立ち止まったのが聞こえました。

「お、おとうさ、おとうさん」
そうささやきながらも恐くなった吉本君が
ゆっくりと窓みると、
窓側に置かれた勉強机の上に
何者かの上半身があり
その目のあたりが
真っ赤に光って見えたそうです。

次に吉本君が気がついたのは、朝だったそうです。
お父さんは出勤していてすでにおらず、
お兄さんも帰ってきた形跡は無かったそうです。

(m)

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2023-09-01-FRI