怪・その44

「降霊術遊び」



これは約40年前の私自身の体験です。

中学1年の、少し寒くなり始めた時期だったと思います。
当時私たちのグループでは、
コッ○リさんに似た降霊術遊びが流行っていて
(当然学校からダメといわれていましたが)、
その日の放課後も、
仲良しグループのメンバー5人ほどが集まり、
それを始めました。

それは紙に五十音や数字、Yes、Noを書き、
十円玉の代わりに
一本の鉛筆をみんなで握って行うのですが、
呪文のようなものを唱え『何か』が来ると、
鉛筆がひとりでに動き出し、
質問に答えてくれる‥‥というものでした。

私たちは、
当時好きだった男の子の名前や恋の行方など、
女子中学生らしい他愛ない事柄を質問しては
キャアキャア言って楽しんでいました。

ところが、その日は少し様子が違ったのです。
動き出した鉛筆に宿った『何か』は
五十音を使って自分の名前を名乗り、
年齢を答えてきました。

名前は○○○、
年齢は当時の私たちと同じ12歳、
更に、隣の中学に通っていた男子だ‥‥と
『それ』は答えました。

過去形なのはつまりもう亡くなっていたからで、
年齢=享年で、
死因は交通事故だった、と語ったのです。

私たちは「エッ何これ! 本当?」となり、
鉛筆を握って固唾を飲みました。
すると直後、信じられないことが。

鉛筆は、紙の、
空白のスペースにサラサラと
文字を書き始めたのです。
それも物凄い速さで。

5人のメンバーのうち、
鉛筆を握っていたのは、たしか3人でした
(私も握っていたうちの1人でした)。

ですが、3人が握っているとは
とても思えない速さで鉛筆は“くねくねと”動き、
何行かに渡って
『彼』自身のことを書き綴りました。
とても達筆でした。

その内容は、
・ごく最近、交通事故で亡くなったこと。
・同じ学校に好きな女の子がいたが、
気持ちを伝えられないままこのようなことになり、
未練が残っていること。
・近くのH公園墓地にお墓があること。

などでした。

これを読んだリーダー格の友人Kちゃんが、
「H公園墓地ってすぐそこじゃん!
これからお墓参りに行ってあげようよ!」
と全員に提案したのです。

「本当にお墓あるのかな?」
「あったらスゴくない?!」
という好奇心に抗えず、みんなも私も賛成しました。

ただ、そのH公園墓地までは
学校から徒歩で20分ほどかかること、
もうすぐ日が暮れる時間になること‥‥などに
私は一抹の不安を覚えましたが、
そんなのは些細なことにも思え、すぐに出発することに。
そこでもう一つの問題に気付きました。
“お墓の場所はどうやって探すの?” ということです。

すると、
また突如として動き出した鉛筆は
「3本の木」と書き、
Kちゃんは「私、その場所知ってる!!」
と言います。
続いて彼女は空中に視線を泳がせ
(Kちゃんは霊感がある人ではありません)、
「○○○くん、私の手に乗って案内してくれますか?」
と言うのです。

『さすがにそれは危険なのでは』と
内心ビックリしましたが、
すぐに鉛筆はYesの周りを
高速でグルグルと何周かしました。

鉛筆を握っていたメンバーのうちのひとりだった
Kちゃんが、私ともうひとりの子に
「二人とも手を離して」と言い、
次の瞬間には「手が冷たい!!」
「手がジーンとする。感覚がなくなってきた」
と言い始めました。

みんなが代わるがわるKちゃんの手を触り、
私もそうしてみたところ、
本当にKちゃんの右手は
氷のように冷たくなっていました。
試しに左手も触ってみましたが、
そちらは温かさがあり、
私は
「○○○くんの霊は
本当に彼女の手に乗っているのかも」と、
背中にヒヤリとしたものを感じました。

そして、少しずつ暮れて行く夕方の景色の中、
私たちはH公園墓地へと歩き、
Kちゃんの案内で公園墓地の奥にある
“3本の木”まで辿り着きました。

その時点で、
空は薄闇に包まれていましたが、
誰一人、
「怖いからもう戻ろう」と言う子はいませんでした。

‥‥と、突然Kちゃんが
「手が勝手に動く!!」
と大声を上げました。

見ると彼女の右手は
とある方向を指差しているのです。

「こっちだって!」「行ってみよう!」
きっとあるに違いない、
そう思いながら指差しに従って進んだ後、
あるお墓の前まで来ると、
Kちゃんの指はそこを差しました。

そのお墓の墓碑には先ほどの降霊術遊びで
紙に書かれた男の子の苗字が刻まれており、
私も含め、全員が言葉を失って立ち尽くしました。

こんなことが本当に‥‥?

その後、墓誌を確認すると○○○くんの名前、
享年12歳と彫られた文字が見つかり、
私たちはパニックに近い状態になりました。

「どうしよう、本当にある!」
と泣き出す子もおり、私も、
『霊は存在するのかも』という思い、
『来て(見つけてあげられて)良かった』
という思いがないまぜになり、どっと涙が出ました。
不思議と怖くはありませんでした。

その後全員でお墓に手を合わせ、
私が、持っていたノートを破り取ったものに
『○○○くんのご家族へ』と、
ことの一部始終を書きました。
とても信じてもらえるか分かりませんが‥‥と。

そしてその手紙をお墓のお線香を供える部分に置き、
その場を後にしました。
いつの間にか周囲は夜になっており、
突然怖さがこみ上げた私たちは、
小さな街灯がポツポツあるだけの
真っ暗なH公園墓地を猛ダッシュで走り抜け、
門から出ました。

走りながらみんな口々に
「本当にあったね!」
「ビックリした」
「お参りしてあげられて良かったね!」
などと言い交わし、
とても良いことを成し遂げた気持ちでいっぱいでした。

なかでもなぜかKちゃんの喜び方はひときわすごく、
「私何だか無性に嬉しくてたまらないの!
みんなに何かおごりたい気分!」と言います。
門から出てすぐの所に売店があったのでそこに寄り、
Kちゃんは気前良く全員に
アイスをおごってくれたのでした。

現在私には小学生の子供がおり、
知り合ったママ友に少し霊感がある方がいたので、
この話をしてみたことがあります。

するとそのママは教えてくれました。
「その時すごく喜んでたのって、
Kちゃん本人じゃないね。
Kちゃんの中に“入ったまま”だった、彼の喜びだよ。
だからみんなへ
『お礼に』おごりたくなったんだよ」と。

Kちゃんとの友情は
大人になってからも長く続きましたが、
次第に疎遠になり、今では音信不通です。

余談ですが、この話には不思議な後日談があります。

ママ友さんにこの話をしたのは、
わが家に子連れで遊びに来てくれてた時だったのですが、
話している最中、奇妙なことが起こりました。

まず、話すうちに、
私の耳元でキーンという高い耳鳴りが始まりました。
同時にママ友が
「待って…ちょっとヤバいかも‥‥今、何か来た。
すごい寒くなって鳥肌が‥‥。
この話ヤバい。一旦やめようか」
と言った直後、隣の部屋で点いていた蛍光灯が
バチン! と音を立てて切れたのです。

そして、その部屋で遊んでいた
わが子を含めた3人の子供たちが
「怖い!! 今そこに変なオバケが来た!!」
と騒ぎ始め、泣き出す子もいました。

「ふざけてるのかな?」とも思いましたが、
3人とも真剣です。
それを見たママ友は
「この話はもうあまり人に聞かせない方が良いかも‥‥。
その○○○くん、30年以上経ってもそのままで、
もう霊ではなく“モノ”になってる可能性がある。
当時のメンバーが無事でいるのか気になる」
と言い出したので、すごく怖くなりました。

「“モノ”って何?」と訊くと
「執着の塊みたいな感じ」とのこと。
それを聞いた私も、寒気が止まりませんでした。

蛍光灯は完全に切れて点かなくなっていたので、
後日新しいものと取り替えました。
偶然にしても、
ちょっとタイミングが合い過ぎで怖かったです。
それと、後でわが子に
「どんなオバケを見たの?」と訊くと
「人間みたいな形なんだけど全然違う変なもの。
怖かった」と言って絵も描いてみせてくれました。

その絵は、確かに人間のように手足はあるものの、
長さや形がおかしく、異形でした。

(めみたん)

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2023-09-01-FRI